クトゥルフの呼び声フラックス

先日、ゴーストハンター13TGの記事を書いたが、今度はそのゴーストハンターが元にした作品、クトゥルフの呼び声を題材としたカードゲームが1月17日に発売された。
その名も『クトゥルフの呼び声フラックス』といい、フラックスというカードゲームを利用したものである。

オリジナルのフラックスとは

フラックスは、アメリカのカードゲームで、ルールやゴールなどがプレイの途中にコロコロ変わるという、一風変わったカードゲームである。
最初にゴールカードというものがあり、そのカードに書かれた条件を満たしたものが勝者となるのだが、最初にこのゴールカードは提示されていない。山札や手札の中に隠れていて、誰かがそれを提示するまでは条件も解らない為、誰も勝てないという、仕組みになっている。
しかもそのゴールカードも、プレイ中にコロコロ変わるため、勝利条件そのものを揃える事が難しく、中々終わらない事もあれば、その時にちょうど条件を揃えていて即終了、なんて事もありうる。
他にもアイテムカードやアクションカード、ルールカードというものがあり、特にルールカードはゲームのシステムそのものを変えてしまう可能性もある特徴がある。
言葉で説明しても、このフラックスの意外性はなかなか理解できないかもしれないが、一度プレイするとこのメチャクチャなルールの中に面白さを見出す事は容易にできるだろう。
このフラックスは、2005年にホビージャパンから発売されたカードゲームなのだが、アメリカ版の第三版が翻訳されている。

フラックスをプレイするとわかるハチャメチャ感

フラックスをプレイした事があればよく分かるのだが、ホントにこのゲームはルールが変わってしまう。
通常「手札3枚」を持ち「山札から1枚ドロー」して「1枚カードをプレイ(使う)」というルールなのだが、これがルールカードでいとも簡単に「手札が1枚」になり「山札から2枚ドロー」して「2枚カードをプレイ」になったりする。それこそ、自分の順番が回ってくる前に、この前提が変わってしまうのだ。
おそらく…初めてプレイすると「なんぢゃこりゃwww」的な感想を持つことになるだろう。
私が初めて『Magic The Gathering』をプレイした時は、そのカードゲームとしての斬新さに驚きはしたものの、ルールを理解すればあとはデッキ構成によってそのルール上で最適な攻めとカウンターを成立させれば勝てる、という印象を持ったが、フラックスはまず固定されたルールが存在せず、またゴールですら変わってしまう事から、作戦の立てようがない。
もし作戦を立てられる人がいるようなら…ぜひ会ってみたいところだが、それぐらい偶然性に頼る必要もあり、運に左右される要素も多いゲームである。
それだけに、その意外性が思いの外面白いワケだが、この意外性がクトゥルフとの親和性をより高めるのである。

オリジナルを取り込みつつアレンジ

このフラックスのルールを用いて、世界観をクトゥルフにしたものが『クトゥルフの呼び声フラックス』である。

面白いが一人では遊べない

前述したように、フラックスそのものがかなりカオスな作りになっている為、それとクトゥルフを融合したのはかなりベストマッチと言える。
もちろん、アイテムカードやアクションカード、ゴールカードそれら全てがクトゥルフ関係のもので占められていて、原作を知っている人はより楽しめる事間違いない。
ただ、アレンジもされている。
アイテムカードは、フラックスでは勝利条件を整える為に使われるカードを指すが、この『クトゥルフの呼び声フラックス』ではマイナス要素を含んだアイテムカードが存在する。そのカードを「クリーパー」と呼ぶのだが、それを所持しているとその場ですぐ自分の場に出さねばならず、それが有効になっている間は勝利条件を整えてもゴールできない。何かしらの手段で無効化したり、他者に押しつけたりする必要がある。流石に自分のエリアに「クトゥルフ」や「ユゴスからのもの」がいてはクリアとは行かないだろうw

更なる混沌「アンゴールカード」

オリジナルのフラックスとは違う要素の一つとして「アンゴールカード」というものがある。
その名の通り、ゴールできないカードで、ゴールカードを上書きしてしまうカードである。
アンゴールカード単体ではゴールできない条件が記載されているだけなのだが、問題は付加条件としてゲーム自体を破壊してしまうアンゴールカードが存在しているという事。付加条件にそうしたヤバイ内容が記載されているのである。
クトゥルフらしいといえばらしいカードだ
このゲームには砂時計の形をした「災厄」を表すマークが書かれたカードがあるのだが、アンゴールの中には、この「災厄」マークが6つ場に出ているとその場でゲームを破壊したりするカードが存在する。
そう、全滅である(爆)
クトゥルフ作品にある、破滅と隣り合わせにいる世界をこうした形で再現しているあたり、オリジナルのフラックスではあり得ないアレンジである。
なお、この「災厄」マークだが、場に出ている脅威の大きさによって数が異なる。例えば「クトゥルフ」が場に出てしまった(顕現してしまった)ら、その時点で「災厄」マークは3つ場に出てしまう。
…なんかもう、末期的に全滅が隣り合わせな感じが、いかにもクトゥルフらしい。
こういう末期的な雰囲気がクトゥルフの世界であり、またのめり込める要素。
ファンならばぜひプレイしたいところだ。

これも残念ながら複数人が必要

先日のゴーストハンター13TGもそうだが、結局「電源なしゲーム」は一人で遊ぶのに適したものではないため、どうしても複数人必要になり、また場も必要になる。
今回の『クトゥルフの呼び声フラックス』もその点は変わらない。
ただ『クトゥルフの呼び声フラックス』はゲームマスターを必要としない分、プレイにおけるハードルは低い。プレイ人数も最低2人と少なくて済むが、面白さを追求するなら4人~6人は欲しいところである。
こうした、プレイする場所、時間の制約をなくす事が、普及させる為の条件になってきているのだが、環境はメーカーとしても整える事はできないため、普及させるのが難しいワケで、この辺りを解決しないと、電源なしゲームの未来は劇的変化を起こさない。

ただ、一つ光明があるとしたら、その面白さを最近では動画で伝えられるという事。
ニコ動などにアップされているTRPGの動画や、カードゲームの動画を見て「おもしろそう」と感じた人がハマっていくというケースも少なくないようだ。
こうした、動画を見て遊び始める人達がコミュニティを形成し、何らかの手段でプレイ環境を作って行く事ができれば、電源なしゲームにはもっと未来があるように思える。
東京は神田にある「テーブルトークカフェ Daydream」のように、特化したスペースがあるが、こうした施設がもっと広範囲にできれば、動画から入った人達の受け皿になるように思える。

クトゥルフを知らない人へ

基本的にクトゥルフの呼び声シリーズはホラー小説がベースである。
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(普通H.P.ラヴクラフトと略する)が中心となり、数名の作家達と架空の神々や地名、書物等の固有名詞の貸し借りによって、クトゥルフ神話が作られ始めた。もちろん、作られていた時はクトゥルフ神話などという神話体系など存在していない。今日のように、神話体系として確立したのは、H.P.ラヴクラフトの死後である。
クトゥルフ神話は、ラヴクラフトの理想としたホラーである“宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)”という概念を形としたもので、宇宙からしてみれば人間の価値観や希望などは一切無価値で、人の意思など絶対的他者の前に理解も阻まれてしまう、という不安と孤独感を文章化している。
これらの解説に関しては諸説あるため、果たしてラヴクラフトがそうした考えの基に小説を書いていたかは不明だが、これら作品が体系化され、今日に伝わっている事で、我々はクトゥルフ神話という一つの作品群として馴染むことができるようになっている。
根底がホラーであるため、苦手とする人も多いだろうが、最近では「這いよれニャル子さんw」でその存在が一気に身近になったため、そういう切り口から入ってきている人も多いと思う。
だが、言うまでもなく本家クトゥルフの呼び声はニャル子さんとはイメージがかけ離れているため、深くクトゥルフ神話を知りたいなら、ホラー小説を手にするしかないだろう。
かくいう私も、実はホラーが苦手故にクトゥルフの呼び声シリーズは制覇しておらず、全てを知っているわけではない(というか知らない事の方が多い)。
それでも、人間の価値観とは無関係な絶対的他者による気まぐれによって人間自身が翻弄されていく作品は、読んでいて実に興味深い。

このカードゲームを発端にしてもいいし、他の動機でもいいが、少しでも興味が沸いたなら、ぜひ一度小説を手にとって欲しい一作である。

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武上

18歳の時、人生の最大の選択ミスをしてしまい、いきついた場所として山梨県人となる。 その後、建設業に身を投じ、資格をいくつか取得するものの、結局自分の性格と合わない事を理由に上京。 上京後、世間で話題になりつつあったアニメ・ゲームを主体とする業界の人間となり、デジタルコンテンツ業界を含む数々の著名人と同じ土俵でマルチメディアな仕事をするに至る。 一見華やかなメディアの世界の、その闇の深さたるやハンパない事こそ世間に何となく知られてはいるが、業界人しか知らないその氷山の全体像を十分すぎるほど目の当たりにした後、家庭の事情で再び甲州へと帰還。 しかし、この帰還も人生の選択ミスだったかもしれないなぁ…と今では思うものの、時既に遅し。 今は地元の製造業を営む会社の総務・品質保証という地味ではあるものの堅実な職につき、いつか再びやってくるだろう夢の実現を信じて隠者的生活を送っている…ハズだったのだが、またしても周囲の事情で運命は波乱の様相を見せ始めた。 私の人生は一体どの方向を向いているというのだろうか? ちなみに筆者はPCとの付き合いはかなり長いと思っている。 古くはPC-8801 mk2 SR、X1 Turbo、X68000、FM-Towns、PC-9801シリーズ(互換機含む)、PowerMAC 9500等をリアルタイムで使い、その後は、Windows PCの自作機を中心に現在に続いている。 デジタルガジェットに関しては興味もある事から、その時代の時々において、いろいろ使ったり調べたりして、専門家ほどではないが知識は蓄えてきたと思っている。 そうした経験を元に、今の時代へ情報発信させてもらっている。少々くどい言い回しが多いかも知れないが、お付き合いいただけるとありがたい。 連絡先:takegami@angel-halo.com (@を小文字にしてください)

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2 Responses

  1. ruser より:

    なんだこれ、滅茶苦茶面白そうじゃないですか!
    先がどうなるか分からないし、対策も立てられない。
    現場においては臨機応変って誰かさんの名言の様に、その瞬間で勝利を目指さないといけないカオスさは好みだなぁ。
    運の要素が強そうだけど、勝利条件に遠かったら道連れ全滅を目指したりなんかすると盛り上がりそう。
    自分の手番の間、イヤァイヤァハスター!と言い続けないといけないとか、そんなカード無いのかなぁ?

    私もMTG:にハマったクチなんで、これはやばそうだw

    • アバター画像 武上 より:

      フラックス自体もかなり面白いカードゲームなんだけど、最大の難点はアメリカ文化を理解していないと、意味がわからない事が多いという事。
      そのアメリカ文化の部分がクトゥルフ神話になったのがコレなんで、クトゥルフ神話を知っている人だとかなり面白いと思います。

      このゲーム、自分で勝ちに行けないなと思ったら、邪教徒プレイに走ればいいんですよw
      災厄マーク6つって多分そんなに苦労しないと思いますよ(爆)

      定価2100円ですが、場所によっては1700円弱で買えるようです。
      おひとついかが?w

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