S660がテストコースに

かつて、私は黄色のビートに乗っていた。

車に乗る事が楽しいと思える一台

私の車との関係を大きく変えた一台…それがHONDAビートである。
初めて新車購入した車だったという事もあるが、何より周囲の車がどんどんとFF化して行く中で、初の後輪駆動車、かつエンジン搭載位置が車体中央というミドシップだった事で、車を操るという事の楽しさを髄まで知ることが出来た最初の一台だった。
今だからこそ言えるが、もしこのビートという車と出会う事がなかったら、私は今ほどの車好きになっていたかはわからない。
ビートの一番楽しかったポイントは、そのクロスレシオ化されたマニュアルミッション操作である。
実に小気味よくカチカチ決まるミッションは、操作そのものがクロスレシオ(2速ギアと3速ギアが一番狭かったと思う)であるため非常に忙しかった、とは思うが、それだけに積極的にギアを変えていかないと、楽しく乗れない。しかし、それを苦痛に感じることもなく、自分から積極的にギアを変えていこうと思わせるような操作フィーリングだった事で、気付けば私自身の車のドライビングテクニックが上達していた事に後から気付いて驚いた事もあった。
とにかく乗って楽しく、操作して楽しい車、それがビートだった。

そのビートも1996年に生産が打ち切られ、私も乗る車種なども変わり、時代そのものがビートのような車を必要としなくなったように思う。それは今街中を走っている車種を見ればよく分かる事ではなかろうか?
私からすると、AT全盛の今の時代しか知らない人はかわいそうとも思える。ビートのような「乗って楽しく、操作して楽しい車」と出会える機会を失った現代。実に嘆かわしく、また残念な気持ちだが、数年前にHONDAはビートの後継車種の開発を宣言し、私もその続報を待ち望んでいた。

噂を聞いたのは2014年末

私の会社の人が、私と付き合いのあるディーラーの人とも知り合いなのだが、その人がディーラーの人に聞いた話を昨年末に聞いた。
それがS660の話で、オフレコという条件でちょっとイロイロと話を聞いた。
ココに書ける内容は「モーターショーとあまり変わらない形で発売される」…ぐらいの話で、他にももっといろんな情報があるのだが、その話だと2015年1月には発表があり2月には発売される、という話だった。
しかし、実際1月に発表はなく、2月に入ってもそんな話が公式でされる事はなかった。
「ああ、発売日が延びてるんだろうな」と漠然に思えたのは、その昨年末に聞いた話の中に発売するにあたって難航しそうな情報があった為。
その情報が確かなのかどうかは、もちろん私には判断のしようはないわけだが、もし本当なら発売はそう簡単に決まることはないだろう、とも思える。
しかして、それでも発売が近づいているという情報があるわけでもなく、漠然とした状況の中で続報を待つしかできない日々が続いた2月14日、HONDAが北海道鷹栖町のテストコースで「S660」を公開したという情報が飛び込んできた。ライトが随分と細いなぁ雪上にたたずむその姿は、迷彩によって姿を隠されたS600のプロトタイプ。
だが、よく見るとその姿は確かにモーターショーなどで公開されたフロントマスクと酷似している。

6速MTの設定が嬉しい限り

今回の発表でもっとも嬉しかったのは6速MTでの発売が現実であるという事が確信できた事。
モーターショーなどのコクピットを見ると、どうみてもCVTしか選択の余地がないような作り込みだったのだが、今回6速MT車が公開された事で確信に変わった。乗り込んでみたくなるコクピットこういった車は煩わしくとも自分で操作できる事に意味がある。
マニュアル操作なんて古くさい…と思う人もいるかもしれないが、車をもっとも自在にコントロールできるスタイルは、やはりマニュアル操作だと私は思っている。
たしかにCVTなどでも、HONDA車の上位グレードなどではパドルシフトによって7速レベルのシフトコントロールが可能ではあるが、それでも元々がCVTであるためダイレクト感に欠ける事は間違いない。これは私の現在乗っているN Boxがそうであるから、実体験の話である。
しかし、S660は6速のマニュアルシフトを搭載してきた。5速でなく6速という所が実に嬉しい話である。以前のビートに乗っていた時は、シフトチェンジが楽しすぎて、すぐに5速に到達し、そこからもう1速上げようとしてできない…なんて事がよくあった。
それだけよく回るエンジンだったという事でもあるが、ギアが1速増えたのは操る楽しさがそのままさらに増えたと表現しても良い事だと思う。
私がこのコクピット画像を見て唯一ちょっと残念…と思ったのは、タコメーターとスピードメーターが同一円内にあるかのようなデザインになってしまった事。古い考えかもしれないが、タコメーターとスピードメーターは独立して2眼メーターになっていてほしかったな、と思う。このあたりのデザインセンスは、以前のビートの方がスタイリッシュだったように思える。ま、好みの問題かもしれない。
ただ、コクピット感はS660の方が断然あると思う。乗っていて楽しさを感じるデザインに仕上がっている事は良い事だ。

4月発売

情報では、どうやらS660は4月発売になるようだ。
エンジンスペック的には最高出力64馬力の660ccターボエンジンを搭載、という事で現行のN Boxに搭載されているS07A型DOHCエンジンにターボを搭載したものだろうと推測される。…まぁ、この時点で私が昨年末に聞いた話とちょっと差異があるのだが、まぁ、イロイロ問題があったのだろう。
個人的にこのターボ搭載という部分が、ちょっと違和感を感じるところで、ビートはNAエンジンを高回転で回して走る車だっただけに、ちょっと残念に思えて仕方が無い。
ただ、ターボエンジンという事は、マフラーをスポーツマフラーに交換するだけ(つまりヌケをよくするだけ)でパワーがメキメキ上がる可能性があるため、これはこれで良いのかも知れない。あー、マフラーはちゃんとJASMA対応のものでないとダメよ(爆)

軽自動車という枠組みで考えれば、ダイハツのコペンが同じ部類に入るが、S660は間違いなく「走り」に特化した車と言える。
前述したように、ターボエンジンとなった事でビートとは異なるフィーリングを持つ車になっただろうが、走りのスピリッツは受け継いでいるのではないかと思う。
だが、もし貴方がターボエンジンよりもNAをブン回して乗るのが楽しいんだよ、という人であるならば、マツダの新型ロードスターをお薦めしたい。車格は違うが、ロードスターのNAエンジンはかなりよく回るように仕上がっているらしい。
また、S660は走りに特化した事で屋根は手動のソフトトップになった。これは軽さを追求した結果からこうなったのだが、もしもっと気軽に、手軽にオープンカーを楽しみたいというのなら、ダイハツのコペンをお薦めしたい。電動トップが用意されている為、気軽にオープンカーを楽しむ事ができる。

何か、ここにきてようやくそれぞれの特徴が明確になった感じがする。
楽しい車、ストイックな車、趣味の車、いろんな言い方が出来るとは思うが、単純に生活に根付いただけの車でなく、操る事が楽しいという車が揃ってきた事は、私がかつて感じた、車とは楽しいものである、という事を知る土壌が復活した、と言い換える事ができると思う。
この勢いで、排気量2L以下のライトウェイトスポーツがもっといろいろ出てくるといいなぁ…と思うのだが、流石に今の少子化問題を前にしては、これは高望みかもしれない。
それでも、もっと楽しい車が増えることを期待していきたい。

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武上

18歳の時、人生の最大の選択ミスをしてしまい、いきついた場所として山梨県人となる。 その後、建設業に身を投じ、資格をいくつか取得するものの、結局自分の性格と合わない事を理由に上京。 上京後、世間で話題になりつつあったアニメ・ゲームを主体とする業界の人間となり、デジタルコンテンツ業界を含む数々の著名人と同じ土俵でマルチメディアな仕事をするに至る。 一見華やかなメディアの世界の、その闇の深さたるやハンパない事こそ世間に何となく知られてはいるが、業界人しか知らないその氷山の全体像を十分すぎるほど目の当たりにした後、家庭の事情で再び甲州へと帰還。 しかし、この帰還も人生の選択ミスだったかもしれないなぁ…と今では思うものの、時既に遅し。 今は地元の製造業を営む会社の総務・品質保証という地味ではあるものの堅実な職につき、いつか再びやってくるだろう夢の実現を信じて隠者的生活を送っている…ハズだったのだが、またしても周囲の事情で運命は波乱の様相を見せ始めた。 私の人生は一体どの方向を向いているというのだろうか? ちなみに筆者はPCとの付き合いはかなり長いと思っている。 古くはPC-8801 mk2 SR、X1 Turbo、X68000、FM-Towns、PC-9801シリーズ(互換機含む)、PowerMAC 9500等をリアルタイムで使い、その後は、Windows PCの自作機を中心に現在に続いている。 デジタルガジェットに関しては興味もある事から、その時代の時々において、いろいろ使ったり調べたりして、専門家ほどではないが知識は蓄えてきたと思っている。 そうした経験を元に、今の時代へ情報発信させてもらっている。少々くどい言い回しが多いかも知れないが、お付き合いいただけるとありがたい。 連絡先:takegami@angel-halo.com (@を小文字にしてください)

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4 Responses

  1. アバター画像 うめー より:

    ついに発表されましたねーS660
    色々とワクワクしますな、MT6速とか「判ってらっしゃる」みたいな。
    ターボは車両総重量が940~960Kgと言う事だとこの手の車でNAは
    厳しんではなかろうかと、ビートの時も重かったけど
    軽くは出来なかったのか、アルトターボRSは800Kg台だというのに

    • アバター画像 武上 より:

      もしオープンカーでなければ、車重はもっと軽くできるでしょう。
      オープンに拘るから強度の関係で重くなるんですわ。
      ま、それはビートの時と同じ。

      でもビートはその重さがあったが故に「回して楽しいエンジン」という、動力は犠牲になったけどフィーリングが楽しい車になったワケで。
      速く走りたいワケじゃなく、楽しく走りたい車である事の方が重要と思うワケですよ、私は。

      ま、ターボなんで今度のS660はそういうフィーリングの車とは違う路線に行くことになるでしょうな。
      それで楽しい車になってるなら、新しい楽しさを見つけるまでですw

      • アバター画像 うめー より:

        失礼、車両総重量は940~960Kgってウソみたい
        ネットで見た情報が捏造だったようです、お騒がせしました。
        申し訳ない。

        • アバター画像 武上 より:

          まぁ、数値云々は正誤いろいろあると思いますが、多分重量は普通のクローズドボディの車より重くなると思いますよ。
          まぁ、極限まで絞って軽くはしてくるでしょうけど、剛性の為に重くなる可能性は高いです。

          あとは数値でどう出てくるか?
          そんな所だと思います。

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