M1搭載Macの現時点の実力?

Rosetta2で動作させてもシングルスレッドでIntelコアを超える。これが今の実力なのか?

総合的に見る必要がある

AppleがM1搭載Macを発表し、そのパフォーマンスの高さをアピールして数日が経過したが、比較対象が曖昧な情報だった事から、一部ではその性能を疑問視する動きもあった。
実際、私も実機を見ないとわからない、という判断をしていたのだが、ここにきて、M1搭載MacのRosetta2経由のベンチマーク結果が出始めたようだ。
macOS Big Surには、Rosetta2という、Intelのx86アーキテクチャ向けに作られたアプリを、ARMアーキテクチャのM1で実行可能なバイナリに変換する機能が実装されている。
これによって、多くのIntelアーキテクチャ製アプリをM1搭載Macで実行可能にする事ができるのだが、このRosetta2経由での動作の速度が、ある意味Intelコアとの決定的な差として評価できる部分であり、多くのMacファンが気にしていた部分だと思う。
M1は現時点でIntelコアよりもいくつか弱点が存在する。
一つは搭載メモリが最大16GBに留まるという事、そしてもう一つはI/OとしてThunderbolt3やUSBの数が制限される事、またeGPUが利用できないという問題である。
これにより、メモリを大量に使用するプログラムでは不利になる可能性は否定できないし、拡張性はIntelコアよりも低く、絶対的なGPU性能では太刀打ちできない領域がある事が予想される。
だが、多くのMac使いからしてみれば、これら弱点はあまり大きな問題にはならない。実際、メモリは16GBもあれば十分という人も多いだろうし、拡張性にしてもThunderbolt3が2個あれば十分という人もいる。またeGPUなど価格的に使えない(使わない)という人も多いだろう。
それだけに、M1がRosetta2経由で素晴らしいパフォーマンスを見せれば、それだけで大満足という人も多いのではないかと思う。

シングルコアでは最強か?

ベンチマークサイト「Geekbench Browser」にRosetta2で動作しているスコアが掲載された。
これが本当ならスゴイ事なのだが…8GB RAMのM1搭載MacBook Airのスコアらしいが、シングルスコアで1,313、マルチコアスコアで5,888となっており、ARMネイティブコードでの実行結果の大凡78~79%のパフォーマンスを持っているらしい事が判明した。
ちなみにこの数値、私が所有する2020年版13インチMacBook Proよりも高い数値なので、Rosetta2経由とは言え、その性能は相当に高い事が判明したと言えるかも知れない。
但し、マルチスコアに関してはARMネイティブコード時でも16インチMacBook Pro等Intel系ハイエンドコアを下回っている事がわかっている。おそらくRosetta2経由ではもっと差が付くことは明確なので、現時点でM1搭載Macは「ローエンドMacを超え、ハイエンド近い性能を持つ13インチ以下MacBook」となる性質を持っていると言えるだろう。

この実力、ホンモノなのか?

ここまででわかった事は、大規模作業を実行する上では、まだIntelコアの方がその性能は高いが、通常の運用に留まるならば、ほぼM1搭載Macは現行の13インチMacBook系を超え、ハイエンドに近い性能を持つに至るだろうという事である。
おそらく、コアの構成そもそもの考え方が異なるのかもしれない。
現在のIntelコア(x86系)は、基本的には2006年くらいから続くCore2の系譜に連なるアーキテクチャで作られたコアで、このCore2の源流はさらに1993年まで遡るPentiumに連なる系譜のものである。その処理はいわゆる「CISC」と呼ばれる、単一の命令で複数の処理を行う可変長命令を処理する事を目的としたものである。
それに対し、M1はARMアーキテクチャというもともとは組込機器や低電力アプリケーション向けに使われたコアなので、そもそもx86系とは方向性がまるで異なっており、処理は「RISC」と呼ばれる命令処理を単純化して全ての演算を1クロックで実行する処理を目的としたものである。
この説明は結構語弊があるので、本格的に知りたい人はもっと詳しい書籍に目を通すことをオススメする。現在はCISCもRISCももっと複雑なものになっていて、単純にコレ、と決め打ちできない処理を行っているが、大元の処理の方向性はCISCもRISCも異なっており、そのアプローチがそもそも違っている。
今回、Appleはx86系のCISC的な処理からARMのRISC的な処理へと転換した事が一番大きな変化であると言える。
実は、Macの初期で利用していたプロセッサ「MC68000」はCISC型のコアであったが、そこから「PowerPC」というRISC型のコアへと乗り換えた。その後、IntelコアというCISC型へと切り替え、それが今回再びARMというRISC型へと回帰したわけである。
前述したように、今は単純にCISCだ、RISCだと割り切る事はできないのだが、ARMの熟成の結果、M1の性能はバイナリ変換を行ったRosetta2を経由した後であっても、Intelコアを凌ぐ性能を見せたワケである。
Intelコアを凌ぐ性能に達した理由としては、私はやはりメモリアクセスの速さに起因しているとみている。
今まで、全てのメインメモリをSoCに載せ、CPUとGPUで同時にアクセス可能にしたコアは聞いた事がない。メモリレイテンシを気にする事なく、待ち時間なしで次々とプロセッサで演算し続ける事ができれば、確かにパフォーマンスは大きく向上する。
おそらくM1の性能の秘密は、この辺りにあるのではなかろうか?

まだ実機は見ていないので、今回出てきたベンチマークスコアが本当に正しいのかはわからない。しかも、Rosetta2によるバイナリ変換に20秒くらいかかるという噂もある。そうなれば、起動に相当な時間がかかるワケで、使い勝手の面ではマイナスと言わざるを得ない。
ただ、少なくともローエンドがミドルレンジになるくらいの性能は持っているだろう一つの根拠にはなるのではないかと思う。
あとはmacOS Big Surが安定し、ネイティブコードで動作するプログラムが増え続ければ、AppleはノートPCの世界で大きく飛躍する可能性がある。
今はまず実機を待とう。

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武上

18歳の時、人生の最大の選択ミスをしてしまい、いきついた場所として山梨県人となる。 その後、建設業に身を投じ、資格をいくつか取得するものの、結局自分の性格と合わない事を理由に上京。 上京後、世間で話題になりつつあったアニメ・ゲームを主体とする業界の人間となり、デジタルコンテンツ業界を含む数々の著名人と同じ土俵でマルチメディアな仕事をするに至る。 一見華やかなメディアの世界の、その闇の深さたるやハンパない事こそ世間に何となく知られてはいるが、業界人しか知らないその氷山の全体像を十分すぎるほど目の当たりにした後、家庭の事情で再び甲州へと帰還。 しかし、この帰還も人生の選択ミスだったかもしれないなぁ…と今では思うものの、時既に遅し。 今は地元の製造業を営む会社の総務・品質保証という地味ではあるものの堅実な職につき、いつか再びやってくるだろう夢の実現を信じて隠者的生活を送っている…ハズだったのだが、またしても周囲の事情で運命は波乱の様相を見せ始めた。 私の人生は一体どの方向を向いているというのだろうか? ちなみに筆者はPCとの付き合いはかなり長いと思っている。 古くはPC-8801 mk2 SR、X1 Turbo、X68000、FM-Towns、PC-9801シリーズ(互換機含む)、PowerMAC 9500等をリアルタイムで使い、その後は、Windows PCの自作機を中心に現在に続いている。 デジタルガジェットに関しては興味もある事から、その時代の時々において、いろいろ使ったり調べたりして、専門家ほどではないが知識は蓄えてきたと思っている。 そうした経験を元に、今の時代へ情報発信させてもらっている。少々くどい言い回しが多いかも知れないが、お付き合いいただけるとありがたい。 連絡先:takegami@angel-halo.com (@を小文字にしてください)

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