ライバル不在はよろしくない

半導体業界は今、一強時代を迎えてしまった。価格が下がらないワケである。

気がつくと…

先日、ふとアキバで販売されているCPUの価格表を眺めていて気がついた事がある。
それは10,000以下のCPUが無くなっているという事である。
一番安いものでIntel Core i3-10100Fで11,980円という価格である。
昔はCeleronやPentiumブランドで10,000円を切る価格のCPUが存在していたと思うが、気がつけばそうした低価格ブランドのCPUの多くはその姿を消してしまっているような状況である。
CeleronやPentiumがあるのが当たり前になっていたが、遂に無くなる実際には、キャンペーンなどで10,000円を下回るような時もあるかもしれないが、基本的にはもう10,000円を下回るCPUというのは、そうそうない時代になったと言えるだろう。
この現象は、数年前から起きている半導体不足が原因…とは言えないだろうと私は思っている。
どのメーカーも製造原価が上がっている事が原因であり、その結果、各社のブランド整理が進み始めた結果だと考える。
Intelは、以前よりCeleronとPentiumを廃止し、新たにIntel Processorという名のブランドを立ち上げる事を宣言している。それによると2023年にモバイル向けから提供開始していくようで、デスクトップ向けはまだ明確なコメントが出ていないのだが、おそらくはもうデスクトップとかモバイルとかで切り分けするのかも怪しいのではないかと考える。
これはどちらも差を無くすという事ではなく、同じブランド内で型番だけ変えてデスクトップ向けとモバイルを棲み分けるという意味である。
製造原価が上がっている最大の理由は、その製造メーカーの製造ラインの中身に問題がある。技術の枯れたラインがなくなり、徐々に最先端プロセス製造のラインへとシフトしていった結果、全てのラインがある一定の微細化が可能なラインばかりになった事で、そこで使用するウェハ原価が上がった為ではないだろうか。
製造メーカーだって工場のラインを作るにはそのスペースが必要なのだから、最先端を追い続ければ自ずと古い製造プロセスのラインは姿を消していく。
そうなれば、自ずと全ての半導体製造原価が上がっていく事は明白であり、それが低価格CPUを維持出来なくなった理由と考えられる。

低価格CPUの意義

そもそも低価格CPUの存在意義とは何なのか?
それは新しい技術の普及を促す事と、高価格帯CPUの歩留りから生まれた不合格品の救済ではないかと私は考えている。
歩留りの悪さから、不合格品が生産された時、基準からこぼれた製品がそれに当たるわけだが、単に基準からこぼれているだけなので、性能を落としてやれば使えるものも出てくる。そうした不合格品で使用出来るものを値段を下げて販売するというのは、よくある話である。
だが、そうしたB級品は、性能が出ないだけでそこに内包されている新しい技術は提供できる場合がある。
その結果、新しい技術で使用する関連製品の普及が可能になり、それら周辺のものも価格が安定、普及していく事になる。
低価格である事の意義は、その価格から導入のしやすさを促し、その結果新しい技術の普及に貢献していた、という事である。
しかし、それも製造原価が許していたからこそ可能だったワケで、今後製造原価がこの流れを許容しなくなった時、新しい技術の普及にコストが大きな壁となって立ちはだかる事は容易に想像出来る事である。
そうなると、この分野は総合的にコストが引き上がっていく事になる。それを防ぐには生産数を稼いて、単価を下げていく事だが、そもそも生産数が限られる事態になっている。微細化が進んだ生産のその難しさから、メーカーが限られてしまうからだ。

TSMCの圧倒的強さ

現在、最先端プロセスで他社の追従を許さないほどの存在になったのは、台湾TSMCである。
以前はIntel一強とも言える程、Intelの強さは他を圧倒していたが、Intelが10nm(現在はIntel7などと言っている)で立上げに苦戦していた頃、TSMCは順調に技術を確立し、その存在感を示したが、その後、TSMCはIntelを超え、そうそうに7nmの立上げに成功、現在はIntelを突き放す存在となった。
問題は、Intel以外の対TSMCメーカーだが、残念ながら韓国Samsungは何とか食いついているようなイメージはあるものの、歩留りなどの関係から今一歩というイメージがある。
他社も結局は同様にTSMCについていけてない状況であり、周囲を見ると結局はTSMC一強という時代がやってきている事に気づく。
では、最先端プロセスに依存しない製造をすれば価格も安く作れるのではないか? と安直に考える人もいるかもしれないが、そもそも微細化を進めないと消費電力的問題などがあるから微細化していくので、その疑問は本末転倒である。
だが、この考え方は別のアフローチを生む。それがチップレット戦略である。

必要なところだけ微細化

AMDがZen4で実施したプランは、主要なコア部分を最先端プロセスで製造し、それに繋がるI/Oやメモリなどの外部要素を、別のダイとして製造、それをチップレット技術で繫いでパッケージに収めるという方法である。
こうする事で、最先端プロセス部分の面積を小さくする事で歩留りを上げつつ価格を落とし、その他はさらに安い製造プロセスで製造したもの組み合わせれば、全体的に見てコストを落としたCPUをパッケージングできるようになる。
もちろん、これら別のダイを接続する為のインターコネクト部分の技術も必要になるわけだが、全てをモノシリックダイで製造する事から考えれば、価格は相当安くする事が出来る。
ただ、それでも複数のダイを組合せてそれを繫ぐという工程を入れる事によって、10,000円を下回るような低価格コアを作る事はできないだろう。チップレットにする際には、その複数のダイを組み合わせて製造する分のコストが乗るからだ。
残念だが、一定のコスト削減には効果は期待できるものの、最低価格を維持できる事とは別次元の話である。

ライバル不在

だが、もっと深刻なのは、このTSMCの圧倒的シェアに対抗するライバルがほとんどいないという事である。
競争はどのような業界にも必要であり、選択肢が複数あるという事はとても重要である。
だが、今は明らかにTSMC一択の状況であり、追従出来るメーカーがない。
一時期のIntelと同じ状況だが、Intelの時よりも深刻なのは、Intelの時は追従するメーカーにまだ勢いがあったが、今のTMSC一強時代ではライバルメーカーに勢いがあまり感じられない事である。
日本も国産半導体の発展の為に「ラピダス」という会社を設立したが、残念ながらTSMCの規模と比較するとどうしてもまだまだ小さいと言わざるを得ない。ラピダスは日本が近未来におけるデジタル産業の下支えとなるべく設立された会社なので、日本が今後デジタル産業全体を見通していく上で必要な企業ではあるが、今すぐTSMCに追いつけるような企業ではないし、そもそもTSMCと競合するメーカーとは異なる体質を持つという。
今は世界的半導体不足の状況なので、半導体を製造できるメーカーの囲い込み戦争が起きている。それだけにTSMCの製造ラインは貴重であり、価格がつり上がっていく。
ライバル不在というのは、何にしても良くない。それは全ての人が判っているのに、それをどうすることもできない状況に陥ってしまっている。

話がとても大きなものになっているが、私がPCは総合的に価格が上がっていると言っている原因は、まさにこの構造から来ているものと見ている。
そしてそれは即ち、私のPCにおける今までの常識すら変えてしまわねばならないという事を意味する。
必要十分という性能を視野に入れて自作していかねば、今後は価格の折り合いが付かない…そういう時代になったという事だろうと思う。

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武上

18歳の時、人生の最大の選択ミスをしてしまい、いきついた場所として山梨県人となる。 その後、建設業に身を投じ、資格をいくつか取得するものの、結局自分の性格と合わない事を理由に上京。 上京後、世間で話題になりつつあったアニメ・ゲームを主体とする業界の人間となり、デジタルコンテンツ業界を含む数々の著名人と同じ土俵でマルチメディアな仕事をするに至る。 一見華やかなメディアの世界の、その闇の深さたるやハンパない事こそ世間に何となく知られてはいるが、業界人しか知らないその氷山の全体像を十分すぎるほど目の当たりにした後、家庭の事情で再び甲州へと帰還。 しかし、この帰還も人生の選択ミスだったかもしれないなぁ…と今では思うものの、時既に遅し。 今は地元の製造業を営む会社の総務・品質保証という地味ではあるものの堅実な職につき、いつか再びやってくるだろう夢の実現を信じて隠者的生活を送っている…ハズだったのだが、またしても周囲の事情で運命は波乱の様相を見せ始めた。 私の人生は一体どの方向を向いているというのだろうか? ちなみに筆者はPCとの付き合いはかなり長いと思っている。 古くはPC-8801 mk2 SR、X1 Turbo、X68000、FM-Towns、PC-9801シリーズ(互換機含む)、PowerMAC 9500等をリアルタイムで使い、その後は、Windows PCの自作機を中心に現在に続いている。 デジタルガジェットに関しては興味もある事から、その時代の時々において、いろいろ使ったり調べたりして、専門家ほどではないが知識は蓄えてきたと思っている。 そうした経験を元に、今の時代へ情報発信させてもらっている。少々くどい言い回しが多いかも知れないが、お付き合いいただけるとありがたい。 連絡先:takegami@angel-halo.com (@を小文字にしてください)

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